刑事事件・少年事件

刑事事件の被害者からの「ありがとう」

私は、オレオレ詐欺の被害者の代理をした経験もありますが、他方で、オレオレ詐欺の加害者の刑事事件の弁護人をした経験もあります。刑事事件の中には、被疑者被告人において、もはや弁解の余地のない案件もたくさんありますが、このような場合、弁護人は、ひたすら情状弁護をすることになるわけです。オレオレ詐欺がその典型です。オレオレ詐欺の場合であれば、弁護人としては、被告人本人がしたことの重大性、悪質性を十分本人に認識させて反省させ、できうる限りの被害弁償を実行するなどして、服役期間(オレオレ詐欺の量刑は非常に重いです。初犯でも執行猶予が付されることは全然期待できません。)を何とか短くしてもらうための情状事実を積み重ねるしかないのです。私が担当した案件では、オレオレ詐欺の被告人の被害弁償を実行していく中で、本人所有の自動車や換価可能な本人の持ち物を全て換金するなどして原資を作りましたが、どう頑張っても、被害額の約37%しか弁償できない案件がありました。私は、被害者からおしかりを受けることを承知で、各被害者の被害額に応じて按分弁済したい旨の配当弁済表を各被害者にお送りして、被害弁償金の半分にも満たない約37%の弁済の提案をしたことがありました。残りの部分についてももちろんお支払いする約束自体はできるのですが、本人が服役し出所した時点からの支払にならざるをえず、残りの部分の回収可能性は、実際上乏しいのです。そんななか、ある被害者の方からは、「もう、戻ってこない金だと思っていた。ありがとう。」とおっしゃっていただいたことがありました。私は、弁護人としての努力を理解していただき非常に感激しましたが、ただ、「全額弁償できず全く申し訳ない。」と言うしかありませんでした。弁護人としては、毎回、被害弁償について限界点まで努力するのですが、被害者は被害感情の強さから、弁護人の努力を理解していただけないことがほとんどです。弁護人としては、それでもめげずに、被害弁償をあきらめずにするしかないのです。

「被疑者ノート」ってご存じですか?

日弁連が作った「被疑者ノート」というものをご存じでしょうか。被疑者ノートは、日弁連のホームページからもダウンロードできます。身体拘束と刑事手続の流れ、取調べに向けての大切なアドバイス、被疑者ノートの記載例、実際の書き込み式の「被疑者ノート」が書かれたノートです。被疑者ノートの記載例の部分は3パターンほど掲載されているのですが、一般の方が読み物として読んでも面白いと思います。私は、身柄拘束中の被疑者の刑事事件を受任した場合は、毎回、「被疑者ノート」を被疑者本人に差し入れています(日弁連のホームページからダウンロードして印刷したものを身柄拘束中の被疑者に差し入れるときは、ホチキスで綴じると差入れができませんので、ホチキスではなく紙の綴りひもで綴じます。昭和な感じです。)。被疑者ご本人は、初めて身柄拘束を受け、戸惑っている人も多く、弁護人から、身柄拘束の見通しであるとか、取調べを受ける際の被疑者の権利について説明を受けても、ご本人自身は十分に把握しきれないでいる場合もままあります。そういう場合に備え、被疑者ノートを差し入れ、接見の後に目をとおしてもらい、特に取調べの際の被疑者の権利についておさらいしてもらうようにしています。被疑者ノートの記入部分は、非常に詳細になっています。取調べの録画が完全に行われるようになれば、このような詳細なノートまでは不要になってくるのかも知れません。

逮捕されたら

あなたが、もし、逮捕された場合には、「当番弁護士」の派遣要請を弁護士会にすることをお勧めします。当番弁護士は、弁護士に無料で1回接見してもらい、助言を受けることができる制度です。取り調べを受ける際に被疑者に認められている権利について、改めて、弁護士から説明してもらい、冷静な対処を図ることをお勧めします。あなたが無実の場合であればもちろん助言を受けたほうがいいですし、無実でないとしても、あなたにとってどのような対応がより望ましいかについて助言を受けることができます。早期の段階で弁護士との接見を行うことは、あなたの案件がいかなる内容でも、必ず、あなたご自身のためになると思います。

前科アリ?ナシ?~罰金と起訴猶予の差

刑事事件では、結論において、前科がつくのか、つかないのかも、非常に大きな差であると言えます。検察官は、刑事事件について、どのような処分を行うのかの決定権限を有しています。ですから、たとえば、軽い暴行事件や軽い傷害事件などでは、検察官は、正式裁判を請求するのか、略式裁判を請求して罰金を求刑するのか、それとも、起訴猶予処分にして今回は特段の刑事処罰を裁判所に求めないこととするのか、その判断をすることになります。検察官は、勾留満期までに、被疑者についてどのような処分にするのか決定しなければなりません。しかし、このことは、勾留満期までの間で、被害者との間で示談するなどの犯罪後の情状事実を積み重ねることで、罰金にしようかと考えていた検察官の判断を起訴猶予処分にとどめることが可能な場合もある、ということを意味しているのです。このように、身柄拘束の早期の段階で弁護士に弁護を依頼することで、何もしないで刑事処分を受けるよりも、示談などの情状事実の積み重ねを行うことを通じて、より軽い処分に結びつけたり、起訴猶予処分に結びつけたりすることが可能な場合もあるのです。ちなみに、起訴猶予処分は、前科にはなりませんが、罰金は前科になります。刑事事件で早期に弁護士に依頼をすることで、それをしない場合に比べると、刑事処罰の有無や程度に差が付くことがあることは否定できない事実です。ですから、刑事事件で弁護士に依頼することをお考えの場合は、なるべく早期に依頼することをおすすめいたします。