原発事故風評被害

観光業者の風評被害の損害賠償

2011年3月11日、東日本大震災が発生し、東京電力株式会社福島第一・第二原子力発電所が事故を起こしました。旭川を含め、北海道は、国内はもとより、アジアを始めとしたさまざまな国や地域から、多数の観光客におこしいただいております。北海道経済部観光局の統計(「訪日外国人来道者数(実人数)の推移」北海道庁のHPで閲覧できます。)によりますと、概ね福島原発事故前の数字と考えてよいと思われる2010年度に来道した外国人は74万1700人でありました。ところが、2011年度は、56万9700人にまで減少したのです。実に、前年度比、76.8%にまで減少したのです。このような統計資料からは、道内の、ホテルなどの宿泊業者さん、観光バスなどの運輸業者さん、土産物業者さんなどをはじめとした観光業者さんで、外国人観光客のお客様に対する売上げを大きく減少させた業者さんが少なくないものと想像されます。このような有意な売上げ減少の原因の一つが、福島の原子力発電所の事故であることは、否定できない事実でしょう。だからこそ、「中間指針」が策定されました。原子力損害賠償紛争審査会は、平成23年8月5日、「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」を策定しました。これを「中間指針」と略して呼んでいます。中間指針は、文部科学省のHPで閲覧できます。この中間指針で示された損害の範囲は、いわば「最低限度」の賠償基準と考えるべきものです。この基準で明言されない部分でも、賠償されてしかるべきものもあります。この中間指針では、「風評被害」についても、福島原発事故と相当因果関係のあるものであれば賠償の対象とするとしています。そして、相当因果関係があるかどうかについての判断基準について、「消費者又は取引先が、商品又はサービスについて、本件(原発)事故による放射性物質による汚染の危険性を懸念し敬遠したくなる心理が、平均的・一般的な人を基準として合理性を有していると認められる場合」としています。また、補足説明的に、「必ずしも科学的に明確でない放射性物質による汚染の危険を回避するための市場の拒絶反応によるものと考えるべきであり、したがって、このような回避行動が合理的といえる場合には、賠償の対象となる。」という説明もなされています。さて、外国人観光客は、福島原発事故が起きた当時の日本をどう見ていたでしょうか?「福島と違って北海道は絶対大丈夫だ。何の問題もない。」という「確信」を持てず、楽しみにしていた北海道旅行を、福島原発事故のために放射性物質が不安なことから取りやめた外国人のお客様は、相当多数に上るのではないでしょうか。これこそが、先ほどの統計上の有意な差なのではないでしょうか。もうすぐ、あの3.11から3年が経過しようとしています。時の流れを止めることは誰にもできません。平成25年2月6日の新聞報道によれば、道内の観光業者さんのなかにも、弁護士の助力を得つつ、原子力紛争解決センター(通称:原発ADR)に仲介してもらいながら、損害賠償請求について和解に至った例が報道の時点で4件ほどあったようです。ただ、アジアからのお客様で賑わいを見せている北海道の観光業にしては、いささか件数が少ないような気がします。原発事故による風評被害の損害賠償請求をするのであれば、弁護士にご相談なさることをお勧めします。このことで弁護団も組織されていたりします。弁護士費用の額も含めてお気軽にご相談なさることをお勧めします。たしかに、風評被害が原発事故と因果関係を有することの立証は簡単ではないのですが、「中間指針」を最低限度のラインとして参考にしつつ、原発ADRに仲介してもらいながら、東京電力に対する適正な損害賠償請求をやってみる価値は十分あるのではないでしょうか。

原発事故被災者支援北海道弁護団