不動産取引
自己物の時効取得
土地の所有権を得たことは確かなのだが、20年以上も昔の出来事で、前の所有者との売買契約書などの書類がなくなっており、自分にその土地の所有権があることの証明に困ることがあります。このような場合、土地の取得時効を根拠として所有権があることを証明することがあります。自分の土地についても、取得時効で所有権を得るということが判例(最高裁第二小法廷昭和42年7月21日判決)で認められているのです。これは、時効制度が、証明困難を救済するためにも存在するからです。もっとも、たとえば個人が時効で権利を取得した場合は、取得した利益は、一時所得となり、課税の問題が生じてきます。ですから、取得時効による証明は、課税関係がどのようになるのかという観点を踏まえた上で、慎重に行う必要があるのです。
契約はいつ成立するのか?
売買契約は、財産権移転の約束と、代金支払いの約束があれば成立する、とされています(民法555条)。手付金の支払いや、契約書の作成も契約成立要件ではありませんし、履行の時期や場所の合意がなくても、担保責任に関する合意がなくても、原則として売買契約の成立に影響しないとされています。このような一般論からすれば、売買契約は、非常に早期の段階で成立することになりそうです。ところが、不動産取引のような、代金が高額となる売買について言えば、このような一般論はかなり修正されています。裁判例を挙げれば、東京高判昭和50年6月30日(判時790号63頁)、東京地判昭和59年12月12日(判タ548号159頁)、東京地判昭和57年2月17日(判タ477号115頁、判時1049号55頁)、東京高判昭和54年11月7日(判タ408号106号、判時951号50頁)、東京地判昭和61年5月30日(判時1234号100頁)、東京地判昭和56年3月23日(判時1015号84頁)などが参考になる判示をしています。教科書的な一般論だけでは、必ずしも事案に即した妥当な解決の見通しを立てられないのです。弁護士と相談して、事案に即したアドバイスを受けながら事件解決を目指すことが肝要かと思います。
登記の移転を求める訴訟
不動産に関する紛争のなかには、移転登記を命じる判決を取得して、その判決に基づいて登記名義を移転しなければならない案件もあります。このような案件で注意しなければならないのは、「その判決主文で、法務局がスムーズに受け付けてくれるのか?」という点です。裁判所が移転登記を命じていても、判決主文や判決理由に記載されている内容如何によっては、法務局で手続きがスムーズに進まない場合があるのです。民事訴訟には、「処分権主義」という原則があるので、裁判官は、訴状に記載された「請求の趣旨」から離れて自由自在にアレンジして判決主文を書くことはできないのです。ですから、我々実務家は、どのような判決主文が欲しいのか(法務局がスムーズに受け付けてくれるのか)について、訴状に記載すべき「請求の趣旨」を、訴訟提起準備段階において、周到な検討を行うのです。たとえば、私が過去に取り扱った移転登記請求訴訟では、「被告は、原告らに対し、別紙物件目録記載の土地につき、昭和〇〇年〇〇月〇〇日取得時効を原因とする訴外亡〇〇〇〇(死亡時の住所北海道〇〇市某)に対する所有権移転登記手続をせよ」という「請求の趣旨」になったものがありました。故人が生存中に土地を時効取得したので、すでに亡くなっている故人名義に登記名義を移転せよという特殊なものでした。移転登記請求訴訟については、法務局がスムーズに受け付けてくれる判決主文の形式を持っていないのです。実質的には同じ趣旨の判決であったとしても、法務局の実務に沿う形式が整っていないと、何とか頑張って判決を取得しても、法務局がなかなか受け付けてくれないという事態をもたらすおそれがあるのです。移転登記を求める訴訟を考えているなら、まずは、弁護士にご相談することをお勧めします。