債権回収
仮差押えによる債権回収の手法
請求先の資金繰りが苦しくなりつつなる状況で、請求先の倒産前に速やかな債権回収が望まれるという局面があります。このような場合に用いる手法として、請求先が第三者に対して有する売掛金などの債権を仮差押えしつつ、早期の和解によって債権回収を図る手法があります。たとえば、A社がB社に対する売買代金債権があるのに、支払いがなされない状況があるとします。その一方で、B社はC社に対する請負代金債権を有しているとします。このような場合に、A社は、①B社に対する売買代金債権の存在と②保全の必要性とを疎明し、裁判所に、請負代金債権の民事保全法の手続きによる仮差押えを求めるのです(請負代金債権を特定する情報が必要です。)。これはあくまでも「仮」の手続きであり、判決とは異なりますから、裁判所が仮差押えの決定を出すにあたっては、保証金(担保)を積む(事案により額が異なります。)ことを条件に決定を出すのが通常です。裁判所の仮差押え決定は、C社がB社に対する支払いを禁止する内容を含みます。資金繰りに窮しつつあるB社としては手痛い内容であるわけです。そこで、B社としては、C社に対する請負代金債権の中から大部分をA社への支払いに充てる(A社がB社の代理としてC社から受領して、A社B社間で相殺処理するなどの扱いが考えられます。)ことをA社に申し入れて和解することを模索する必要に迫られるわけです。A社としては、債権の満額回収までは実現しないにせよ、大部分について回収し、残部を分割払いで和解し、しかも和解調書という債務名義を取得した状況に至るわけです。ちなみに、相手方企業が資金繰りに余裕がある場合は、速やかに和解してキャッシュフローを改善させたいという動機づけがないので、仮差押えの後に淡々と通常訴訟を起こして判決を取得しなければ債権回収につながりません。この手法は、いわば、契約の支払期限を守らない相手方を、資金ショートの危険と直面させ、本気で解決させる気にさせる荒療治ともいうべき手法です。もっとも、仮差押えが資金繰り悪化の最後の一撃になった場合は、相手先企業は破産などの倒産手続きを始めるのでしょうから、こうなってしまうと債権回収の結果を得られません(仮差押えの経費について経費倒れに終わります。)。相手先企業の信用不安がある場合の、早期の段階の債権回収手段といえるでしょう。
滞納状態になった売掛金の請求をするなら
売掛金などが滞納状態になり、何回か文書で請求をかけてもそれでも支払ってくれないときで、さらに正式な形で金銭支払請求をする場合、それでもまだ、内容証明郵便を使う方、結構いらっしゃいます。内容証明郵便は、内容証明をつけることで、文書の記載内容を郵便局(郵便事業株式会社)に証明してもらい、配達証明をつけることで、その記載内容の文書が名宛人に到達したことを証明してもらえます。何らかの意思表示が相手方に間違いなく到達したことを証明するための手続きなんですね。しかし、それだけなんです。内容証明郵便を出したからといって、支払義務者の財産を差し押さえる根拠となる書類(債務名義といいます。)にはならないのです。「本当に支払わないなら、最後は、差押さえますよ!」という毅然とした意思を示して請求書を出そうというのであれば、簡易裁判所に「支払督促」を申し立てるべきだとおもいます。裁判所の手続きを使うことにはなりますが、内容証明郵便を出そうかと検討するような取引相手とは事後には取引はしないのでしょうから、こういう形で毅然と請求してよいと思います。また、支払督促に相手方から異議を述べられると、手続的には、通常訴訟に移行しますが、先方が支払義務を認めているのであれば、分割払いの和解に至ることが多いと思います。裁判上の和解をした後、約束を破られても、和解調書を債務名義にして、差押さえが可能になります。このように、簡易裁判所の「支払督促」の手続きは、滞納の売掛金回収に役立つものなのです。
滞納債権の分割払いの合意-即決和解や公正証書の活用
売掛金債権などの金銭債権の支払期限を経過したのに、支払いがなされず、その後、分割払いにして完済してもらう合意をすることがよくあります。このような場合に活用できるのが、①簡易裁判所の即決和解の手続きや、②公証役場での執行認諾約款付きの公正証書作成です。①②のいずれについても、債務者が分割払いを怠った場合には債権の残額を一括払いする期限の利益喪失条項を入れるのが通常です。また、①②のいずれによっても、債務者が合意した分割払いの約束を守らないときは、債権差押えなどの強制執行が可能となります。①②の手続きをとれば、債務者には、合意を破れば強制執行され金融機関からの信用を失う結末に至るという強力な心理的プレッシャーを与えることができますから、非常に有効な手法であると思います。このような債権回収の交渉などについても当事務所で取り扱っております。お気軽にご相談ください。
相続放棄と債権回収~特に、租税債権
亡くなられた方が、預貯金のほかに土地や建物なども所有していてプラスの財産も相当程度所有していたけれども、他方で、亡くなられた方の保証債務などのマイナス財産である債務の額が非常に大きいことから、相続人全員が相続放棄して、相続人が不存在になってしまうことがあります。このような場合、亡くなられた方に対して金銭債権を有していた方は、どのようにしたらよいのでしょうか。相続人が誰もいない場合は、「相続人のあることが明らかでないとき」に該当しますから、民法951条によって、相続財産は、法人とされます。財産のかたまりに法人格が付与されるのですから、性質は財団法人の一種と考えられます。このように、財産のかたまりである相続財産に対して法人格が付与されるわけですが、この段階では、相続財産の管理者がいないわけです。つまり、金銭債権者の立場からすると、このままでは、請求書を出そうにも、具体的な宛先がないわけです。そこで、相続財産管理人の選任をして、相続財産管理人あてに請求書を出すわけです。相続財産管理人を選任は、「利害関係人」または「検察官」の請求により、家庭裁判所が行います。債権者は、「利害関係人」に該当しますから、相続財産管理人の選任申立権があります。このようにして相続財産管理人を選任すると、その後は、民法の規定に従って、相続財産管理人が、プラス財産の換価を進め、弁済の準備をしていきます。そうしていくと、相続放棄した相続人が予想したとおり、債務超過であることが具体的に明らかになるわけです。そうすると、配当弁済をすることになります(民法957条2項の準用する民法929条本文)。この際には、実務では、国税徴収法や地方税法の規定にしたがって公租公課、担保権、一般債権の優劣を処理しています(ただし、配当弁済は強制換価手続ではありませんから、国税徴収法12条から14条までの適用をしないで配当額を計算することが多いようです。)。つまり、相続財産管理人の選任は、一般債権よりも優先性のある滞納租税債権の回収に役立つ手続きなのです。ちなみに、相続財産管理人の報酬は、家裁に予納する扱いのほかにも、民法の条文上は、被相続人の相続財産の中から支払われるべきものとされています。ですから、全体的には債務超過状態であっても、無担保のプラス財産が相当程度あれば、その中から、相続財産管理人の報酬を支払った上、優先性のある公租公課などを全額配当できることも十分あり得るのです。このような手続きを活用しながら、自治体が、滞納租税債権の回収を図ることも、今後は増えるのかも知れません。