成年後見
成年後見の効果-家族からの経済的虐待への歯止め
成年後見開始の家事審判がなされますと、選任された成年後見人は、被後見人の財産の管理を開始し、家庭裁判所に、定期的に被後見人ご本人の財産目録を提出するなどしなければなりません。このように、成年後見人は、家庭裁判所から被後見人ご本人の財産の管理についてどのようになっているか、監督されることとなります。ですから、被後見人のご家族が、被後見人の財産を被後見人のためにではなく、自分自身のために費消することもできなくなります。もちろん、親族間には扶養義務もありますから、親族間での支え合いという観点も必要です。しかし、その一方で、認知症などで判断能力がなくなった方の財産について、社会通念上家族間の扶養という水準とは考えがたい金額を、勝手にほしいままに費消することは、経済的な虐待と言わざるを得ないのも事実です。経済的な虐待がある場合には、成年後見を申し立てることにより、被後見人の財産の散逸を防止する効果が生まれるのです。経済的な虐待がある場合は、ご本人が亡くなった後、遺産分割の際に紛争となることが多いように思います。本人のために本人の金銭を費消したのか否かは、証拠で明らかにするには困難な場合も多いのです。経済的な虐待を受けているご家族がいらっしゃる場合は、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。
「いつもお世話になっております。」
私は、稚内ひまわり基金法律事務所の所長をしていた当時、稚内市長の申し立てにより、身寄りのない方の成年後見人に選任されたことが数件ありました。その時の経験で、忘れられない経験があります。成年後見人に選任されますと、高齢者施設に入所中のご本人にお会いするようになるのですが、重度の認知症の方で、何度お会いしても私の顔をおぼえて頂けない方がいらっしゃいました。ですから、毎回、「初めまして」と言われて会話が始まるのです。ところが、私が、そのご本人に対して、「裁判所から選任されて、あなたの財産を管理させて頂いている弁護士です。」と私自身の立場を説明すると、ご本人は、毎回、「いつもお世話になっております。」とおっしゃるのです。ご本人自身の認識としては、私と初めて会ったという認識のはずであるにもかかわらず、自らの認知の状態を理解し、私に対して、「いつもお世話になっております。」とおっしゃるのです。もしも、私自身が、ご本人と同様の認知の状態になったら、「いつもお世話になっております」と即答できるのだろうか?などと考えさせられました。私は、「いつもお世話になっております。」という、たったこの一言で、成年後見人の存在意義を強く思い知らされた気がしました。この経験から、私は、成年後見は、基本的人権の擁護を使命とする弁護士(弁護士法1条)ならではの、とても重要な職務であると思うに至ったのです。